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HBOCについてのQ&A

【Q1∼Q6】HBOCとは

1. HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)とは何ですか?
遺伝性のがんの一つです。傷がついた遺伝子の修復機能をもつBRCA1、BRCA2 という2つの遺伝子のどちらか(または両方)に変化(専門用語で「病的バリアント」といいます)があるために、一般の人より乳がんや卵巣がんの他、膵臓がん、男性では前立腺がんを発症しやすい体質の方がHBOCと診断されます(がんを発症していなくても、BRCA1BRCA2 の遺伝子に変化がある場合はHBOCと診断されます)。乳がんのうち3~5%、卵巣がんでは10~15%がBRCA1、BRCA2の変化によるものです。BRCA1、BRCA2 のどちらかに変化がある場合、80歳までに乳がんを発症する累積リスクは約70%、卵巣がんではBRCA1の変化がある場合44%、BRCA2の変化がある場合は17%※1となります。
  • *1)Karoline B Kuchenbaecker,et al., JAMA, 317 (23), 2402-2416(2017)
2. どのような人がHBOCの可能性があると考えられますか?
ここでは、かんたんなチェック方法をご紹介します。
母方、父方それぞれの家系について、以下の質問にお答えください。あなた自身を含めたご家族の中に該当する方がいらっしゃる場合は、あなたは遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)である可能性が一般より高いと考えられます。
  • 40歳未満で乳がんを発症した方がいますか?
  • 年齢を問わず卵巣がん(卵管がん・腹膜がん含む)の方がいらっしゃいますか?
  • ご家族の中でお一人の方が時期を問わず原発乳がんを 2 個以上発症したことがありますか?
  • 男性の方で乳がんを発症された方がいらっしゃいますか?
  • ご家族の中でご本人を含め乳がんを発症された方が 3 名以上いらっしゃいますか?
  • トリプルネガティブの乳がんといわれた方がいらっしゃいますか?
  • ご家族の中にBRCAの遺伝子の変化(病的バリアント)が確認された方がいらっしゃいますか?
気になる方は主治医にご相談ください。
HBOCの可能性を知るチェックリスト」にも掲載しています。
3. 家族に乳がんや卵巣がんになった人がいなくても、HBOCである可能性はありますか?
可能性はあります。近親者に乳がん、卵巣がんの方が全くいない場合でも、Q2に当てはまる項目があれば、一度専門家への相談をお勧めします。
近年は核家族化が進んで親族の人数が少なく、たまたま女性の近親者が少ないために乳がん、卵巣がんにかかった方がいなかったということもあるかもしれません。
家族や親族がかかった病気の履歴を「家族歴」と言います。父母、兄弟姉妹を初め、父方、母方両方の祖父母やおじ、おば、いとこなどのご親族のがんの家族歴―――どのようながんにかかっているかを把握しておくことは、あなた自身のがんのリスクを判定するためにとても大切です。また、家族歴は年々変化していくものであることにも留意してください。
4. HBOCは必ず遺伝するのですか?
両親のどちらかにBRCA1 あるいはBRCA2 遺伝子の変化(病的バリアント)がある場合、子どもが受け継ぐ確率は 1/2(50%)です。
HBOCと診断された方に2人の子どもがいる場合、2人のそれぞれが50%ずつの確率となり、2人のどちらかが必ず受け継ぐというわけではありません。また男女による差はなく、男性にも50%の確率で受け継がれます。
5. HBOCは男性にも関係ありますか?
BRCA1,2 の遺伝子の変化(病的バリアント)は男性にも50%の確率で引き継がれます。HBOCの男性は一般の男性と比べて乳がんの他、前立腺がん、すい臓がんを発症しやすいと言われています。
6. 一般の乳がん・卵巣がんに比べて、HBOCの乳がん・卵巣がんの悪性度は高いのですか?
乳がんの場合、一般の乳がんと比べてHBOCの乳がんの方が転移や再発をきたしやすいとは考えられていません。
卵巣がんでも乳がんと同様で必ずしも悪性度は高くなく、逆にHBOCの卵巣がんは化学療法が奏功しやすいとの報告もあります。
HBOCの乳がんの方の場合、乳がんを克服した後にも、新たに卵巣がんや膵がんを発症しやすいというリスクがありますが、リスク低減手術の普及やHBOCに特異的に作用する薬剤の開発普及により、予後の向上が期待されています。

【Q7∼Q15】HBOCの乳がん・卵巣がんの遺伝子検査・治療について

7. HBOCかどうかを知るための検査はどのように行なわれるのですか?
HBOCは血液検査による遺伝子検査により診断されます。
8. HBOCの遺伝子検査では何を調べるのですか?
BRCA1、BRCA2 という2つの遺伝子の中に他の人と異なっている場所がないかどうかを調べます。 遺伝子とは人体の設計図のようなもので、基本的には人類はほとんど共通していますが、遺伝子の中身に一人ひとりの違いがあって個性を生み出しています。BRCA1BRCA2は誰もが持っている遺伝子ですが、その一部が他の人と異なる場合を「変化(バリアント)」といい、それにより正しい遺伝子の働きができず明らかにがんの発症しやすさと関係している場合を「病的バリアント」といいます。 BRCA1,BACA2 いずれかの遺伝子に病的バリアントが見られると、HBOCと診断されます。
9. HBOCの遺伝子検査は保険診療で受けられますか?
2020年4月よりHBOCの検査が保険適用となりました。
下記に該当する患者さんはHBOCを診断するためのBRCA1,2遺伝子検査を保険診療にて受けることができます。
 
【保険適用となる方】
以下のいずれかにあてはまる方※2
  1. 45歳以下で乳がんを発症した方
  2. 60歳以下のトリプルネガティブ乳がんと診断された方
  3. 2個以上の原発乳がんを発症している方
  4. 第3度近親者内に乳がんまたは卵巣がんを発症した方がおり、家族歴からHBOCが疑われる方
  5. 男性乳がんの方
  6. 卵巣がん、卵管がんおよび腹膜がんの方
 
上記に該当しなくても、下記のいずれかに当てはまる方
  1. 化学療法を受けているHER2陰性の手術不能または再発乳がんの患者さんで、分子標的薬「オラパリブ(商品名リムパーザ)」での治療を検討されている方
  2. Stage III,IVの卵巣がんで、術後の化学療法として分子標的薬「オラパリブ(商品名リムパーザ)」での治療が検討されている方
上記以外の方(患者さんの家族でがん未発症の方など)がBRCA1,2遺伝子検査を受ける場合には、保険外診療となります。
*2)日本乳癌学会「遺伝性乳がん卵巣がん症候群の保険診療に関する手引き」
10. HBOCの遺伝子検査~治療の流れを教えてください。
医師や専門スタッフからの説明」→「BRCA1,2遺伝子検査」→「HBOCの診断」の順となります。
 
【HBOCと診断された方の乳がんの治療や予防】
  • 乳房温存術が可能な場合でも、温存した乳房の新たながん発症のリスクを最小限に抑えるために乳房切除(全摘術)が考慮される場合があります。
  • 乳がんが手術できないほど進行している場合や再発した場合は、分子標的薬オラパリブ(商品名リムパーザ)が薬物治療の選択肢になることがあります。
  • MRI等による乳房の定期検診(フォローアップ検査)を行います。
  • 患者さんのご希望によりがんを発症していない乳房や、卵巣への「リスク低減切除」を行うことも選択できます。
 
【HBOCと診断された方の卵巣がんの治療や予防】
  • Stage III,IVと進行している場合で術後の初回化学療法後に分子標的薬オラパリブ(商品名リムパーザ)の使用が行われることがあります。
  • MRI等による乳房の定期検診(フォローアップ検査)を行います。
  • 患者さんのご希望によりがんを発症していない乳房に対する「リスク低減切除」を行うことも選択できます。

 

図1)遺伝性乳がん卵巣がん症候群の治療の流れ

 

(厚生労働省資料より)
※「遺伝カウンセリング」については14を参照してください。
11. HBOCの遺伝子検査や治療はどこで受けられますか?
HBOCの遺伝子検査はこれまで一部の医療機関にて実施されていましたが、2020年4月に保険適用になったことを受けて、現在、医療体制の準備が進められています。ご自分の医療機関で受けられるかどうかは、主治医の先生におたずねください。なお、おかかりの医療機関で受けられなくても、近隣の連携医療機関で受けることが可能です。
12. BRCA1,2遺伝子検査はいつ受けるのがよいのでしょうか?
基本的には、いつでも受けられます。しかし、乳がんと診断された方は、手術前にBRCA1,2遺伝子検査を受けることで、手術方法を乳房温存療法から全摘出に変更するなど、より将来の再発リスクが少ない治療の選択に活用できます。
13. 郵送の遺伝子検査キットでHBOCかどうかわかりますか?
保険診療はもちろん、自費で行う場合でも、乳がん・卵巣がんの診療に使う目的で行われるBRCA1,2遺伝子検査は医療機関において血液を採取し、厳密な精度管理が行われた検査機関のみで解析を行っています。
依頼者が直接、唾液などを検査会社に郵送する遺伝子検査も徐々に増えてきています。しかし医療機関で実施される遺伝子検査と比べ守らなくてはいけない法律・規則が異なり、検査の精度、第三者認証の有無などのばらつきがあるため、これらの郵送検査等の結果を医師が確定診断の根拠とすることはできません。※3
*3)ゲノム医療実現推進に関する平成30年度の取組状況(令和元年5月29日付)
14. 遺伝カウンセリングとは?
検査に先立って行われる「遺伝カウンセリング」では、HBOCについての正しい情報をお伝えし、血縁者の病歴などを詳しくお聞きして、遺伝性のがんである可能性を検討し、実際に遺伝子検査を受けるかどうかを話し合うことができます。
 
HBOCを初め、遺伝性のがんの診療で行われる遺伝カウンセリングは、遺伝に関する専門知識をもつ医師または「認定遺伝カウンセラー」が、家族歴などの状況から遺伝性のがんの可能性について検討します。HBOCが疑われる場合にはBRCA1,2遺伝子検査によりわかること、わからないこと、方法、費用などを理解していただいたうえで検査結果をどのように活用していけるか、血縁者にどのような影響があるかなど、一人ひとりの状況を考慮して遺伝子検査を受けるかどうか話し合います。
遺伝カウンセリングは、患者さん自身が検査を受けるかどうかを決め、結果を理解し受け止めるためのお手伝いをするプロセスと言えます。一方、遺伝子検査を受けないと決めた場合においても、ご本人やご家族の健康管理について話し合われます。
適切な診療科や他の医療機関と連携を図り、必要に応じて受診の調整や紹介を行ないます。
 
【参考】日本遺伝カウンセリング学会ホームページより
遺伝カウンセリングでは、遺伝に関わる悩みや不安、疑問などを持たれている方々に、まず科学的根拠に基づく正確な医学的情報を分かりやすくお伝えし、理解していただけるようにお手伝いいたします。その上で、十分にお話をうかがいながら、自らの力で医療技術や医学情報を利用して問題を解決して行けるよう、心理面や社会面も含めた支援を行います。
http://www.jsgc.jp/index.html
15. 乳房再建術とは何ですか。HBOCとどう関係しますか?
乳房再建術とは、乳がんの切除(乳房全摘手術)や、HBOCの方が将来の乳がん予防のためにがん未発症の乳房を切除する「リスク低減手術」によって失われた乳房に対し、できる限り元の形に近い姿に整えるための手術をいいます。再建のメリットは乳房切除による気持ちの落ち込み(喪失感)を軽減することができることです。
手術方法には、①シリコンインプラントを用いた「人工物再建(インプラント法)」と、②下腹部や背中の皮膚・脂肪を移植する「自家組織再建」があり、どちらも健康保険で受けられます。
乳がん切除と同時に行う場合を「一次再建」(同時再建、即時再建)と呼び、手術後時期をあけて行う場合を「二次再建」と呼びます。乳房再建は手術後何年経っていても受けることができますが、放射線療法を受けた後の人工物再建は適していません。乳がんの初期治療で乳房温存手術を選択した場合、術後の放射線療法は標準治療となっています。放射線治療を受けた温存乳房に局所再発してしまった場合、人工物による乳房再建術は難しいことが多いので注意してください。

【Q16〜Q21】HBOCの乳がん・卵巣がんの予防について

16. HBOCは予防できますか?
HBOC自体は遺伝による生まれつきの体質であり、体質そのものを変えることはできません。そのため予防の方法は乳がん・卵巣がんの発症を防ぐ一次予防、早期に発見する二次予防が主体となります。
一次予防の方法としては、発症する前に乳房や卵巣・卵管を切除する「リスク低減手術」(予防的切除手術)があります。
二次予防の方法としては、乳がんの早期発見のために25歳から半年~1年に1度の特別な乳がん検診を受けることが推奨されています。しかし、卵巣がんについては早期発見のための検診方法がまだ確立していないため二次予防は難しく、一次予防である「リスク低減卵巣卵管摘出術(RRSO)」が唯一の予防方法になります。
17. 「リスク低減手術」とは何ですか?
がんを発症する前にがんの発症リスクを最大限下げるため乳房や卵巣、卵管を切除する手術のことです。 BRCA1,BRCA2 遺伝子に変化(病的バリアント)のある方は、乳がん、卵巣がんの発症リスクが一般より高いため、一次予防として実施されています。 乳がんのリスク低減手術には、乳がんを発症していない方に対する両側リスク低減乳房切除と、乳がんを発症した方に対する対側リスク低減乳房切除(がんを発症していない側の乳房の切除)があります。一方、卵巣がんのリスク低減手術には、将来の卵巣がんや卵管がんの発症リスクを下げるためのリスク低減卵管卵巣切除があります。 リスク低減手術の有効性・安全性は確立されており、海外だけでなく日本国内の関連学会からも診療ガイドラインがまとめられています。 これらの治療の必要性については、それぞれのがんの治療の経過や、患者さん自身の意思を尊重しながら、主治医と一緒に相談して決めていきます。
18.「リスク低減手術」には健康保険が使えますか?
2020年4月から、HBOCと診断された乳がん・卵巣がんの方のリスク低減手術には健康保険が適用されています。
ただし、 BRCA1,2 遺伝子の変化(病的バリアント)が認められているものの、乳がん・卵巣がんを発症していない方の場合、リスク低減手術は自費となります。
19.リスク低減乳房切除(RRM)について詳しく教えてください。
乳がんは乳管、腺葉を主体とする乳腺組織(図2)から発症することが知られています。この乳がんが発生するおおもとの乳腺組織を乳がんが発症する前に切除するのが「リスク低減乳房切除術」です。
リスク低減乳房切除術には、乳輪乳頭を含めて乳腺組織のほぼすべてを切除する単純乳房切除(図3)や乳輪・乳頭を残して乳腺組織を切除する乳頭乳輪温存乳房切除術(図4)などがあります。乳頭乳輪温存乳房切除術は乳房再建を行うときなどに多く選択されます。

 

図2)乳房の組織

 

図3)単純乳房切除術

 

図4)乳頭乳輪温存乳房切除術
20. リスク低減卵巣・卵管切除術(RRSO)について詳しく教えてください。
卵巣がん・卵管がんが発生する前に両側の卵巣・卵管とも切除するのが卵巣がん・卵管がんのリスク低減手術です。
通常は腹腔鏡というカメラを用い下腹部に小さな傷をつけて切除を行いますが、以前に腹部の手術を受けたことがある場合など、腹腔鏡手術が不向きな場合には、開腹して手術を行う場合もあります。

図5)卵巣・卵管の構造
21.リスク低減手術はどこで受けられますか?
2020年4月から保険適用となったことを受けて、現在医療体制の準備が進められています。リスク低減手術が受けられる医療機関については主治医の先生に相談してください。
乳がん・卵巣がん未発症の方がリスク低減手術を自費診療で受ける場合の具体的な費用については、実施している医療機関にお問い合わせください。