第3回学術総会開催報告

第3回日本HBOCコンソーシアム学術総会

学術総会概要

・テーマ:
「HBOC診療を日常診療にするために」
・日時/会場:
2015年1月25日(日)9:00〜17:00
東京医科歯科大学 M&Dタワー2F 鈴木章夫記念講堂
・プログラム:
開会の辞 会長挨拶

シンポジウム1 HBOC診療を日常的に行っている施設での診療体制
【座長】札幌医科大学 櫻井晃洋
           がん研有明病院 岩瀬拓士

がん研有明病院 新井正美
聖路加国際病院 吉田 敦
昭和大学 吉田玲子
横浜市立大学 浜之上はるか
四国がんセンター 金子景香
相良病院 馬場信一
岩国医療センター 田中屋宏爾

シンポジウム2 HBOC診療をサポートするスタッフ
【座長】東邦大学 村上好恵
           京都大学 鳥嶋雅子

川崎医療福祉大学 山内泰子「遺伝カウンセラーの認定制度について」
慶応義塾大学 武田祐子「遺伝看護専門看護師制度について」
お茶の水女子大学 四元淳子「HBOC診療での遺伝カウンセラーの役割」
聖路加国際病院 金井久子「HBOC診療での看護師の役割」

会員総会

スポンサードシンポジウム「米国でのHBOC患者会の活動」
【座長】昭和大学 中村清吾
           聖路加国際病院 山内英子
YSC代表 Stacy Lewis (共催:中外製薬株式会社)
「Humble beginning + Perseverance = Impact」
FORCE代表 Sue Friedman (共催:アストラゼネカ株式会社)
「Uniting patients, clinicians, and researchers to improve outcomes for people with HBOC」

日本家族性腫瘍学会の歩み
【座長】 近畿大学 田村和朗
【演者】兵庫医科大学 冨田尚裕

日本産科婦人科学会、日本婦人科腫瘍学会の取り組み
【座長】慶応義塾大学 青木大輔
【演者】聖マリアンナ医科大学 鈴木 直

第5回HBOC国際シンポジウム報告
【座長】四国がんセンター 大住省三
           新潟大学 榎本隆之
北海道がんセンター 高橋将人「Management of BRCA1/2 mutation carriers: where are we in 2014?」
聖路加国際病院 矢形 寛「Other cancers in carriers: prostate and pancreas cancer」
聖路加国際病院 北川 瞳「Tests and tubes」
胎児クリニック東京 田村智英子「Risk communication」
都立駒込病院 後藤理紗「Old genes and new genes for breast and ovarian cancer」
都立駒込病院 有賀智之「Whole genome approaches to risk」

閉会の辞

ランチョンセミナー (共催:株式会社ファルコバイオシステムズ)
講演1
【座長】東京医科歯科大学 三木義男
【演者】株式会社ファルコバイオシステムズ 権藤延久
「BRCA1/2遺伝子検査 -感度、特異度 結果の解釈 そして診断に基づく個別化医療」
講演2
【司会】株式会社ファルコバイオシステムズ 和泉美希子
【演者】HBOC当事者の会 Clavis Arcus(クラヴィス アルクス)代表 太宰牧子
「HBOC当事者からのメッセージ」
・学術総会協賛企業:
アストラゼネカ株式会社、中外製薬株式会社、株式会社ファルコバイオシステムズ
・サテライト企画:
「市民公開シンポジウム』
2015年1月24日(土)13:30〜16:30
東京医科歯科大学 M&Dタワー2F 鈴木章夫記念講堂
テーマ:「いま知りたい『遺伝性乳がん卵巣がん』」



学術総会レポート

有賀智之(日本HBOCコンソーシアム広報委員)

2015年1月25日、澄み渡る青空のもと、四国がんセンター、大住省三会長により『HBOC診療を日常診療にするために』をスローガンに第3回日本HBOCコンソーシアム学術総会が開催された。

まずシンポジウム1は現在HBOC診療を日常的に行っている日本の先進的な各施設からの発表が行われた。

  1. 癌研有明病院 新井先生からは15年前の遺伝子診療部創立より続く診療の理念から、実診療の内容、スタッフなどをお話しいただいた。生涯にわたるケアの重要性及び、他科との連携による、よりよい遺伝診療体制の構築の重要性が示された。
  2. 聖路加国際病院 吉田先生からはHBOC診療における工夫点を中心にお話をいただいた。HBOC診療の入り口となる家族歴聴取の工夫、またこの診療に携わる医師の知識の向上、カウンセリングにおける情報伝達のコツなど実際行われている診療に即したお話であり明日の診療から活かせる実践的な内容であった。
  3. 昭和大学病院 吉田先生からは現在までに行った遺伝子検査結果からみえる問題点や発端者はもとより特に未発症家系員に対する取り組みを積極的に取り組んでおられるとのこと、また文部科学省科研費研究、PARP inhibitorを使った第3相試験などわが国で行われている最先端のHBOC研究について触れられ今後の展開が期待される内容であった。
  4. 横浜市立大学 浜之上先生からは今後HBOC診療に本格的に取り組んでいく際に問題となる諸般の課題や問題点、また解決のための人的資源の充足、担当医療職の知識向上、他科との連携の構築など、今後取り組む施設の参考となる内容であった。
  5. 四国がんセンター 金子さんからはカウンセラーの立場からみた現状、問題点、今後の展望をお話しいただいた。カウンセラーが聴取するきめ細かい家族歴、カウンセラーが中心となる情報の集約、提供を聞くにおよび、HBOC診療充足のためにはカウンセラー職の充足が喫緊の課題であることが再確認される内容であった。
  6. 相良病院 馬場先生からは乳がん専門病院における取組、特に拾い上げにおける独自に構成された効率の良いアルゴリズムをご紹介いただいた。忙しい外来における効率のよい拾い上げはHBOC診療普及のカギになることが示された。
  7. 岩国医療センター 田中屋先生からは平成11年より始まる息の長い遺伝性悪性疾患へのとりくみをご紹介いただき、乳がん診療数がそれほど多くない中でもかなり専門性の高いHBOC診療への取り組みが可能であること、またそのための工夫をお示しいただいた。

シンポジウム2ではHBOC診療をサポートするスタッフからのご報告であった。

 川崎医療福祉大学 山内先生からは遺伝カウンセラーの認定制度についてお話をいただいた。遺伝ゲノム医療の発展に伴い、クライアントの心理的配慮に始まり、遺伝医学を取り巻く学術知識の理解、意思決定に至るまでの詳細な情報提供など認定遺伝カウンセラーの幅広い役割についてご紹介いただきこれを可能にする養成課程をお示しいただいた。

 慶応大学 武田先生からは遺伝看護専門看護師制度についてのご紹介をいただいた。 専門分化がすすむ看護職の中において、がん看護、遺伝看護に対する取り組みの拡大と、医療現場における実践を目指した養成理念、養成課程はHBOC診療の普及にも大きく寄与することが期待される内容であった。

 お茶の水女子大学 四元先生からはHBOC診療における遺伝カウンセラーの役割について実際のカウンセリングで実際に遭遇するシーンをお示しいただき、それらシーンの背景にある心理的側面と情報として伝達すべき科学手根拠に基づく知識、あるいはそれらの上手な伝え方の重要性についてお示しいただいた。HBOC診療に携わる他専門職においても大変参考になる口演であった。

 聖路加国際病院 金井先生からはHBOC診療における看護師の役割についてお話をいただいた。日常の乳がん臨床のなかにいかにHBOC診療を根付かせるかに関しては乳がん臨床に携わる看護師の理解と実践がいかに重要であるかが再確認される内容であったとともに、このような看護師によるHBOC診療の実践が聖路加国際病院におけるHBOC診療の重要な部分を担っていることが披露された。

 ランチョンセミナーではファルコバイオシステムの権藤先生からBRCA1/2遺伝子検査を分析的妥当性、臨床的妥当性、臨床的有用性、倫理的法的社会的妥当性の各側面からお話しいただいた。
 現状行われているBRCA1/2検査がいかに正確性を担保して行われているか、正確な結果を臨床に返すためにファルコバイオシステムとして行っている取り組みなどの紹介から始まり、その正確な結果に基づくHBOC医療のエビデンスにいたるまでの幅広いご口演をお聞きすることができ、HBOC診療が科学的に実証された有効な取り組みであること深く印象付けられる内容であった。

 会員総会は中村理事長から平成25年度事業報告を中心にお話があった。
 データベース事業の進展をはじめ文部省科研費研究、教育事業、広報事業などHBOC診療を今後日本に遍く広めていくための各種事業が積極的に行われている現状が話され、本コンソーシアムの成長、発展を通して大きな成果が期待できる内容であった。
 また現在制定を検討中の遺伝性乳がん卵巣癌総合診療制度に関してお話があり、乳がん、卵巣がん関連諸学会に加えカウンセリング学会、人類遺伝学会などを加えたさらに大きな枠組みの中でHBOC診療の精度を保ちつつ普及を図ることが論じられた。また予防的手術などさらなる医療の発展に関してはこの大きな枠組みの中で進めていかれることも話され、本邦においても着々とHBOC診療の整備が進展していることが理解できた。

 スポンサードシンポジウムにおいては米国でのHBOC患者会の活動としてYSC代表のStacy Lewis氏,FORCE代表のSue Friedman氏からご口演いただいた。
S tacy Lewis氏は若年乳がん患者を代表する米国の団体YSCの代表であり、若年乳がん患者特有の問題解決に取り組んでおられる。特に家族歴、遺伝といった問題は若年性乳がん患者では非常に重要な問題であり特に力を入れている領域である。
 ウェブ上におけるHBOC関連の教育、DVDの作成などを通じて行われているHBOC啓発活動、政府、担当医療職、研究者そして患者間のパートナーシップの構築などHBOC診療の底上げを図る様々な活動を通し若年性乳がんにおける諸般の問題解決を図っている。
 患者の知識を増加し、疎外感を解消すること、共感と傾聴の実践を重視し、最終的な目標として若年性乳がん患者の人生の質を保つことを掲げられたことには強い共感を覚えた。 またSue Friedman氏からは米国におけるHBOCの取り組みをお話しいただいた。日本における医療施策、医療行政とは異なり、米国では患者自身が団体を構成し積極的に施策、行政にリクエストし変革していく歴史を、氏自身の乳がん体験、HBOC体験からお話しされFORCEという団体の結成、FORCEの活動理念などが示された。
 1996年、氏が乳がん及びHBOCと診断された時節には、HBOCを取り巻く環境は周囲の関心も薄く、現在の日本と同様な状況‘lonely journey’であったこと、自身の‘sub standard medical care’ からadvocateとして立ち上がることを決意し、実際のadvocateとして活躍する中でHBOC診療の普及とより良い治療の均霑化に寄与したストーリーは本邦医療職のみならず、患者にも大きな勇気と希望を与える話であった。

 関連学会からの報告は日本家族性腫瘍学会、日本産科婦人科学会・日本婦人科腫瘍学会の代表の先生方からHBOC診療とのかかわりをご口演いただいた。
 日本家族性腫瘍学会は兵庫医科大学 冨田先生から家族性腫瘍研究会の発足から今日の学会に至るまでの経緯をご紹介いただき、家族性腫瘍との深い関わりと、その歴史の中で積み上げた遺伝性悪性腫瘍症候群に関する豊富な知識と業績が披露された。また、その設立の経緯から遺伝性大腸がんとのかかわりが深い学会であったが、今後はHBOCに関する活動も増やしていくとのことで、ますます活発な学会活動が行われることが期待された。
 日本産科婦人科学会・日本婦人科腫瘍学会からは聖マリアンナ医科大学 鈴木先生から口演をいただき、学会の小委員会を通じてHBOCカウンセリングの現状、BRCAキャリアに対するサーベイランスなどHBOC診療における婦人科領域の問題をトピックとして取り組んでいただいている現状をお話しいただいた。全国の施設に対して行ったアンケート結果からは婦人科領域においても本格的な取り組みはこれからであることが示されており、今後の学会主導の普及活動が本格化することが期待される内容であった

 最後は昨年4月カナダ モントリオールにて行われた第5回HBOC国際シンポジウムの報告が6人の演者から行われた。本国際シンポジウムはHBOC診療おける最先端の内容を扱うシンポジウムでありいずれも先進的で刺激的な内容であった。

  1. 北海道がんセンター 高橋先生からはBRCA1/2キャリアにたいするマネジメント、中でも予防的卵巣切除の効果のお話から始まり、BRCA1キャリアにおける予防的卵巣卵管切除の生命予後改善効果は明らかであり、本邦での早期の導入が強く望まれる結果であった。またPARP阻害剤の臨床試験結果からBRCA1/2の遺伝子検査が今後治療方針決定のためのコンパニオン診断に使用される可能性も強く示された。
  2. 聖路加国際病院 矢形先生からはBRCA1/2キャリアにおける乳がん卵巣がん以外の癌の発症に関する発表があり、前立腺がん、すい臓がんの話がその中心的内容であった。BRCAキャリアにおいてはこれら二つの癌の発症率が上昇すること、キャリア、非キャリアにおいて発症する各癌の生物学的な特性が異なる可能性がありBRCA遺伝子変異の有無が治療方針決定のための重要な検査になる可能性が示されたと同時にキャリアにおけるスクリーニングプログラムの開発に課題が示された。
  3. 同じく聖路加国際病院 北川先生からは予防治療のトピックとしてリスク低減のための卵管切除についてのお話があった。卵巣がんの原発部位が卵管であろうという現在までの研究の結果により、卵巣を温存できる縮小予防手術として期待されている手法であり、北米2施設からの臨床結果もふまえてのご発表があったが、まだその術式の成否については議論の多いところでもあるとのことであり今後の治療成績の集積と評価が待たれる内容であった。
  4. 胎児クリニック東京 田村先生からはリスクについて話し合うときのポイントと注意点についてのご報告があった。BRCAのキャリアの発症率が報告ごとに大きく違うことなど科学的データの問題点から心理社会的研究から浮かび上がる問題点など先進地域における臨床から垣間見えるさまざまな問題点が報告された。また米国でのカウンセラー経験も豊富な田村先生ならではの、欧米での現状を踏まえた問題のとらえ方がご披露され、先進地域の現状を実体験として知っておられる先生によるご意見、本邦における導入時のアドバイスは必要不可欠なものであると強く感じられた。
  5. 駒込病院 後藤先生からは新たな乳がん、卵巣がん関連遺伝子としてPPM1DとPALB2の話を中心にお話しいただいた。PALB2に関しては遺伝性、乳がん卵巣がんの原因遺伝子としてその位置づけが確立し、今後の臨床応用が期待できるほか、PPM1Dは新たなコンセプトの原因遺伝子であり今後の研究、臨床への応用が期待された。
  6. 同じく駒込病院 有賀からmodifier geneと乳がん卵巣がん発症のリスク、whole exome sequenceの現状と問題点につき発表をさせて頂いた。今後本格的なclinical sequence時代の到来に伴い、今までとは全く異なるsequence主導の臨床研究の展開が予測されること、このためにnext generation collaborationが必要になってくること、このようなnext generation collaborationのcoreに本コンソーシアムが成長していくことが祈念された。

 第3回の日本HBOCコンソーシアム学術総会も成功裡のうちに幕を閉じ、続く来年第4回の大会長に就任された新潟大学産婦人科教授 榎本隆之先生より第4回大会の抱負が述べられ全プログラムの終了を迎えた。

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