第4回学術総会開催報告

第4回日本HBOCコンソーシアム学術総会開催報告

学術総会概要

・テーマ:
「よりよいQOLのために」
・日時/会場:
2016年1月24日(日) 9:00〜17:00 / コクヨホール
・プログラム:
9:00〜9:05 開会の辞会長挨拶

9:05〜10:40シンポジウム1「HBOCの診療体制に関わる諸問題」

10:40~12:30シンポジウム2「リスク低減手術の現状と展望」

12:40〜13:40ランチョンセミナー
1.「BRCA検査英国での取組―Royal Marsden Hospital」
2.「Genetic relationships between breast and ovarian cancer」

13:50〜14:20会員総会

14:20 〜15:50シンポジウム3「よりよい治療をめざして」

15:50〜16:50シンポジウム4「乳房と卵巣:よりよいQOLのために」

16:50〜閉会の辞

・協賛企業:
■アストラゼネカ株式会社
■中外製薬株式会社
■株式会社ファルコバイオシステムズ

学術総会レポート

有賀智之(がん・感染症センター都立駒込病院/日本HBOCコンソーシアム広報委員)

2016年1月24日、第4回日本HBOCコンソーシアム学術集会が新潟大学産婦人科教授 榎本隆之会長のもと東京品川コクヨホールにて開催された。当日は記録的な寒波が日本全体を覆い大変寒い一日であったが、非常に多くの参加者を迎え盛大に行われた。 「よりよいQOLのために」と題された本学術総会の講演の様子を記載する。


中村清吾先生シンポジウム1ではHBOC診療体制の諸問題に関する発表が行われた。
当コンソーシアム理事長・中村清吾先生(昭和大学)は本邦におけるHBOC診療の概要につき述べられ、家族性乳がん治療に対する取り組みの歴史から、米国、本邦における現状が示された。
講演の中でBRCA1/2遺伝子検索から始まったHBOC診療の取り組みは、多数の他原因遺伝子の検査へと広がりを見せつつ全世界的に普及が拡大しており、本邦においても臨床現場における対象患者の拾い上げからカウンセリング、遺伝子検査、予防治療まで行えるシステムの普及が喫緊の課題であることが示された。本邦で広くこの診療に取り組んでいくために、HBOC診療施設に認定制度を設け、質の保全を図ることに関しては聴講者の関心も高く、今後の方針につき質疑応答がなされた。

続いて新井正美先生(がん研究会有明病院)から本邦におけるHBOCデータベース構築に関する講演があり、試験登録(n=827)の結果から本邦オリジナルの予測モデル開発の可能性や創始者変異同定の可能性が期待された。本登録は順次全てのHBOC診療病院に対しての登録依頼が開始される見込みであり、本邦の医療システムや日本人の民族的特異性を加味したビッグデータの完成が待たれる内容であった。

最後に権藤延久先生(ファルコバイオシステムズ)からBRCA1/2遺伝子検査の本邦における現状と今後の展望につき講演していただき、実施施設、検査数ともに増加基調であることが示された。また、BRCA1/2以外の原因遺伝子を含むmulti gene panelについて触れられ、米国においてはすでに普及が始まっていること、多数の遺伝子検索が一度に行えることによる原因遺伝子追及の効率化や診断がつかないジレンマの忌避などメリットが多い反面、検査に関するガイドラインの制定、各病的遺伝子変異に対する対応策の策定など課題も多いことなどが示された。


シンポジウム2ではリスク低減治療をトピックに講演が行われた。 竹島信宏先生(がん研究会有明病院)からはがん研におけるBRCA変異保因者に対する婦人科的サーベイランスおよびRRSOの現状をご紹介いただいた。サーベイランスに関してはご自身の施設の症例を提示されその限界と、予防手術の重要性をご解説された。RRSOに関しては対象患者の選定、倫理審査の状況、病理診断の手順まで実際の症例をご紹介いただき、大変実践的な内容であった。

続いて山内英子先生(聖路加国際病院)からはBRCA保因者に対する乳がんのスクリーニング、化学予防、RRMの取り組みにつきご発表いただいた。聖路加国際病院における遺伝子検査の現状から、遺伝カウンセリングのシステム、RRMに至るまでの医療職と患者のかかわりなど実践的な内容を、実際に自施設で施行したRRMのデータを交えご解説いただいた。RRMにおけるリンパ節の検索はどうするか、病理診断はどこまでやるのか、VUS保因者に対する適応の是非など実践の中で見えてきた問題点を共有できたことは大変意義深かった。

最後に平沢晃先生(慶應義塾大学)から発症リスク、予防法の個別化に関してご解説いただいた。冒頭、本邦独自のBRCA1/2遺伝子変異データベースのないことに触れられ、データベース構築のためのコホート研究が立ち上がったことが紹介された。コホート研究においてはバイオバンクの併設も目指されており、バイオバンク先進国の現状のご紹介から、今後の臨床、研究への応用が期待される内容であった。


Prof. Matulonisランチョンセミナーにおいては米国よりProf. Matulonis (ダナファーバー癌研究所, USA)を迎え、卵巣がんの分子生物学的特徴のレビューが行われた。
卵巣がん患者の診断から治療に至る経緯の症例提示から始まり、米国における一般的な卵巣がんの治療指針、治療成績などが披露された。また経過中標準的なオプションの一つとしてBRCA遺伝子検査が行われていることも示された。
さらに、多様な組織系をもつ卵巣がんではその組織型と関連の深い遺伝子が同定されてきており、high grade serous卵巣がんではBRCAとの関連が深いこと、high grade serous卵巣がんにおける遺伝子変異はtriple negative 乳がんと近似性が高いことなどが示された。また、再発卵巣がんにおける遺伝子研究が薬剤耐性の解明、至適薬剤選択など治療においても重要な位置を占めることが強調され、今後がん診療における遺伝子検査の重要性はますます高まっていくものと考えられた。

榎本隆之先生続いて本学術総会会長の榎本隆之先生(新潟大学)からは、BRCA診療の英国での取り組みをRoyal Marsden Hospitalへの見学体験をもとにご講演いただいた。
初めに卵巣がん家族歴を基にした遺伝子検査候補者の拾い上げは必ずしも十分ではなく各国ガイドライン、各施設基準でも相違がみられることが示された。さらに、卵巣がん患者におけるBRCA1/2遺伝子検査のメリットを詳細にご解説され、現在の本邦医療体制内で多くのカウンセリング対象者をカバーできる余裕は少ないことを問題点として挙げられた。このリソース不足は全世界共通の課題であり、これをいかにRoyal Marsden Hospitalでは解消したかという内容は、今後わが国、各病院においてHBOC診療を広めていく際の重要なヒントになると思われた。


シンポジウム3では、前述のMatulonis (ダナファーバー癌研究所, USA)と村井純子先生(National Cancer Institute:NCI, National Institute of Health:NIH,USA)から、PARP inhibitorの作用機序に関する講演をうかがった。村井先生にはSingle strand brakeは正常細胞でもよく起きていること、そこで起きている遺伝子修復機構、各種PARP inhibitorの相違(Catalytic inhibition, PARP trapping, Selectivity for PARP1)、PARP-DNA complex自体が細胞毒性のあることなどご自身のデータを含めて興味深い内容を詳細にご解説いただいた。また、PARP inhibitorの耐性に関するご自身の研究から、原因となる分子の同定が期待されること、分子生物学的観点から推測されるPARP inhibitorと相乗効果のある薬剤の推測など、実際にPARP inhibitorの研究をしている研究者からではなければ聞くことができない貴重な話を聞くことができた。


シンポジウム4においては「よりよいQOLのために」と題し、HBOC診療と生殖医療に関する発表が行われた。

清水千佳子先生(国立がん研究センター)からは、生殖年齢にある乳がん患者さんに正しい情報を伝えることの重要性から、妊孕性に関するパンフレット、診療の手引き作成を行い、患者、医療者に対する情報源、自己決定支援ツールとして役立てていることが発表された。BRCA1/2遺伝子変異をもつ血縁者の未発症若年者に遺伝子診断のリスクとベネフィットを正しく伝えることは諸般の困難な側面を有するが、遺伝子検査結果を有効に活かし、対象者の十分な自己決定を支援して必要な医療を介入させるうえで必要不可欠であり、今後取り組むべき重要な事案であるとの提言をいただいた。

次に高江正道先生(聖マリアンナ医科大学)からは、本邦におけるHBOC診療上問題となる生殖医療に関する発表が行われた。卵巣予備能の評価方法から妊孕性温存法とその適応、オプション別の妊娠成功率、BRCA遺伝子変異と卵巣機能の関連等、興味深いデータが示された。BRCA変異のキャリアーにおいては卵巣組織そのものに卵巣がん発症リスクが高いことも一般的な不妊治療と異なり、BRCAキャリアーに対する妊孕性温存においてはがん治療専門医の介入が必要であることが示唆された。

最後に松尾高司先生(University of Southern California, USA)から米国におけるHBOC診療に関する報告が行われた。米国においては卵巣がんにおけるBRCA遺伝子検索は重要な検査となっており、ACOGによるリスク評価に基づき広くカウンセリングが提供されているとのことであった。また、遺伝子変異情報をどの程度子供に伝えているか等、広くBRCA遺伝子検査が普及した状況で生じる諸問題につきご教示いただいた。また、BRCAにまつわる様々な問題をケースシナリオを基に解説し、各シーンにおいてどのような説明や選択が行われているかという発表は、今後HBOC診療が実臨床に普及した際のとても良い参考になると考えられた。また、卵巣凍結等がん患者における妊孕性温存の適応の実際や全体の費用など、現地でしか知りえない貴重な情報をうかがう機会であった。

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